東京地方裁判所 昭和40年(ワ)5226号 判決 1967年12月04日
原告 株式会社豊田商店
右代表者代表取締役 豊田喜十郎
<ほか一名>
原告両名訴訟代理人弁護士 設楽敏男
同 岩田豊
被告 株式会社国民相互銀行
右代表者代表取締役 松田文蔵
右訴訟代理人弁護士 花岡隆治
同 斉藤兼也
同 田宮甫
同 向山義人
同 鈴木光春
同 鈴木孟秋
被告 大機産商株式会社
右代表者代表取締役 南与之
主文
一、(1) 被告両名は、原告株式会社豊田商店に対し連帯して金四〇〇万円及びこれに対する昭和四〇年七月一四日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を
(2) 被告両名は、原告雪ヶ谷興業株式会社に対し連帯して金二〇〇万円及びこれに対する昭和四〇年七月一四日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を
各支払え
二、訴訟費用は被告らの負担とする。
三、この判決は、仮りに執行することができる。
事実
(当事者双方の求める裁判)
原告両名訴訟代理人は
被告両名は連帯して原告株式会社豊田商店に対し主文第一項の(1)記載の、原告雪ヶ谷興業株式会社に対して同項(2)記載の金員の支払を求める旨および主文第三項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、
予備的に「被告株式会社国民相互銀行は、原告株式会社豊田商店に対し金四〇〇万円、原告雪ヶ谷興業株式会社に対し、金二〇〇万円及び夫々これに対する昭和四〇年七月一四日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え」との判決を求めた。
被告株式会社国民相互銀行訴訟代理人は、
「原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を求め、
被告大機産商株式会社は
「原告らの請求を棄却する」との判決を求めた。
(当事者双方の主張)
第一、原告ら訴訟代理人は、その請求の原因として、
「一、原・被告はいずれも株式会社である。
二、原告株式会社豊田商店(以下原告豊田商店という)は、手形貸付の方法により被告大機産商株式会社(以下被告大機産商という)に対し昭和三九年一〇月二八日金二〇〇万円を貸渡し、同被告振出の別紙目録1、2記載の各約束手形を、同月一七日金二〇〇万円を貸渡し同目録3、4記載の各約束手形を受領した。
原告雪ヶ谷興業株式会社(以下原告雪ヶ谷興業という)は、前同様同被告に対し昭和三九年一〇月二八日金一〇〇万円を貸渡し、同被告振出の別紙目録5記載の約束手形を同年一〇月二九日金一〇〇万円を貸渡し同目録6記載の約束手形を受取った。
三、然して、右貸付の際、原告豊田商店の代表者であり、原告雪ヶ谷興業の代理人である豊田喜十郎は被告株式会社国民相互銀行(以下被告銀行という)を代理する同銀行常盤台支店長訴外小橋照夫と、右各貸金債務につき、被告銀行において債務者被告大機産商と連帯して保証する旨の契約を締結した。
四、よって、原告豊田商店は被告らに対し、連帯して貸金元本金四〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四〇年七月一四日以降完済に至るまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告雪ヶ谷興業は被告らに対し、連帯して貸金元本金二〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四〇年七月一四日以降完済に至るまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、
五、予備的に、前記小橋は、被告銀行の常盤台支店長であり被告銀行の商業使用人であって、被告銀行の支店長としてその業務上、被告大機産商に対する融資を担当し、且つ同被告の資金操作をすべて行い同被告会社を管理し、同被告において債務の支払能力がなく、前記各手形は満期に支払われる可能性のないこと等の内情を知悉しながら、原告らから金員を騙取する目的で、前記豊田喜十郎に対し、小橋において支店長の職務上同被告を管理しているから右各手形は満期には必ず決済できるし、同被告の原告らに対する債務は被告銀行が保証する旨の虚偽の事実を告げ、同人をして、前記各手形が満期において支払われ、原告らの貸金債務が決済されるものと誤信させ、原告らから被告大機産商への各手形貸付名下に前記の日に前記金員を受領したが、被告大機産商はその後手形不渡を出して倒産し、小橋の刑事被疑事件が新聞報道されるに至り右貸付金の回収は不可能となり、原告らにおいてそれぞれ前記各貸付金と同額の損害を蒙った。
右小橋照夫の行為は同人が被告銀行の支店長として同被告の業務を遂行するに当りこれを行ったものであるから、原告らは、右訴外小橋の使用人たる被告銀行に対し、被用者の不法行為に基づき、原告豊田商店は右損害金四〇〇万円を、原告雪ヶ谷興業は右損害金二〇〇万円を、及び夫々、これに対する訴状送達の翌日である昭和四〇年七月一四日以降完済に至るまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ」と述べ、「被告銀行の抗弁は否認する」と述べた。
第二、被告銀行訴訟代理人は答弁として原告等主張の請求原因たる事実のうち、
「一、は認める。二、は不知。三、は訴外小橋が昭和三九年九月二四日から同年一〇月三一日まで被告銀行常盤台支店長であったことは認めるが、被告銀行が債務を保証したことは否認する。本件保証は右小橋が個人として保証したにすぎず被告銀行は関知しない。四、は否認する。五、のうち被告大機産商が手形不渡を出したこと小橋の刑事事件が報道されたことは認めるがその余は否認する」と述べ、「かりに原告らと被告大機産商の間の消費貸借が認められ訴外小橋が同被告を保証したことが認められても右の保証は被告銀行の支店長としての権限の範囲に属せず、原告らはこのことを充分知りながらその主張の貸付をなしたものであって、被告銀行は小橋の保証につき責に任ずることはできない。」と抗弁した。
第三、被告大機産商は、答弁として原告等主張の請求原因たる事実のうち、
「一、は認める。二、は否認する。三、は知らない。四、は否認する」と述べた。
(証拠)≪省略≫
理由
一、原・被告らがいずれも株式会社であって、商人であること、及び訴外小橋照夫が昭和三九年九月二四日から同年一〇月三一日まで被告銀行常盤台支店長であったことについては当事者間において争いがない。
二、(消費貸借契約の存否)
≪証拠省略≫を総合すれば、同小橋は、同人が被告銀行本店の貸付係主任として勤務していた頃から石油点火剤の輸入販売を業とする被告大機産商の営業資金の調達、役員の就任の斡旋など会社の運営に関与しており、昭和三九年一〇月二三日頃までは同被告の会社記名印、代表者印及び小切手帳などを預り、被告大機産商のために手形或は小切手を振出すなど、同被告会社を監督管理しており、右小橋は少くとも同被告のもとに右印鑑等が返却されるまでは同被告から営業資金調達に関する包括的な代理権を有していたものと認められる。
≪証拠・証拠判断省略≫と前記認定の事実とを総合すれば、原告豊田商店の代表者で、原告雪ヶ谷興業の代理人である豊田喜十郎と前記被告大機産商の代理人訴外小橋との間において
(イ) 貸主原告豊田商店 借主被告大機産商間の
1、昭和三九年一〇月二八日 金二〇〇万円
2、同年一〇月一七日 金二〇〇万円
(ロ) 貸主原告雪ヶ谷興業 借主被告大機産商間に
1、同年一〇月二八日 金一〇〇万円
2、同年一〇月二九日 金一〇〇万円
の各消費貸借が成立し、右消費貸借上の債権を確保するため、右(イ)の1につき別紙目録(1)(2)記載の、(イ)の2につき同目録(3)、(4)記載の、(ロ)の1につき同目録(5)記載の(ロ)の(2)につき同目録(6)記載の各約束手形が被告大機産商から振出されて授受されたことを認めることができる。
以上の認定に反する証人小橋照夫の証言部分は≪証拠省略≫に照らして信用することができない。
三、(被告銀行の保証契約の存否)
(1) ≪証拠省略≫を総合すれば、前記に認定したとおり被告大機産商を管理する同会社代理人小橋照夫は被告大機産商のため原告らから合計金六〇〇万円の融資をうけるに当り、右貸金債務を担保するため、被告銀行常盤台支店長として原告ら代理人豊田喜十郎に対し、その支払を保証することを約したことを認めることができ、被告銀行の支店長たる訴外小橋は、支店の営業の主任たることを示すべき名称を附した被告銀行の商業使用人と考えられ、支配人と同一の権限を有するものとみなすことができ、金員消費貸借における保証は金融機関たる被告銀行の常盤台支店の営業に関する行為と認められるからこのことにつき訴外小橋は被告銀行を代理する権限を有するものとみられ、前記消費貸借における訴外小橋のなした保証契約は被告銀行につきその効力を生ずるものといわなければならない。もっとも前示甲第一号証の二(保証書と題する書面)には別紙目録記載の各約束手形が期日に決済するよう責任を以て管理する。万一不渡の折は拙者が保証致します旨の記載がなされていてその末尾には訴外小橋の住所氏名捺印が存するのであって銀行に関する文言は記載がないのであるが、≪証拠省略≫によれば、甲第一号証の二には甲第一号証の三(訴外小橋の銀行支店長としての名刺)が貼付されていたことが認められるから右甲第一号証の二の記載によって訴外小橋の個人保証にすぎなかったものと認めることはできない。また、以上の認定に反する証人小橋照夫の証言は≪証拠省略≫に照らして信用することができず、≪証拠省略≫はこれと反する≪証拠省略≫と対比すれば直に信用することができない。
従って原告らに対してなした保証は右小橋が被告銀行を代理して保証したとみるのが相当である。
(2) しかして、証人小橋照夫の証言によれば、債務の保証は訴外小橋の被告銀行支店長としての権限の範囲に属していなかったと思うと述べられているが、その証言は明確でなく、これのみでは権限外の行為と認められず、他にかかる権限が与えられていなかったことを肯認するに足る証拠はないばかりか、訴外小橋が右保証権限のないことを原告ら又はその代理人豊田喜十郎が知っていたことを認めるに足る証拠はない。(甲第一号証の二((保証書))の記載についての判断は先に説示したとおりである。)
以上の次第であるから、被告らは連帯して原告豊田商店に対し金四〇〇万円、原告雪ヶ谷興業に対し金二〇〇万円とこれに対するいずれも訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四〇年七月一四日から完済に至るまで商法所定の利率による年六分の割合による損害金を支払う義務があるから原告の被告らに対する本訴請求はいずれもこれを正当として認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条第九三条を仮執行の宣言については同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 荒木大任)
<以下省略>